コメンテーター
森谷 哲郎 先生
もりや内科・呼吸器科クリニック 院長
治療継続の秘訣は、その意味を理解し納得することです。
「わかりやすく、あたたかい医療」をモットーに
患者さんへの説明の方法を工夫しておられる森谷先生に、
いつも、患者さんにお話しされていることを教えていただきました。
スポーツの秋に関する注意点もお聞きしています。
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スポーツの秋!上手に運動を取り入れましょう | 咳は発作?早めの治療で大きな発作を防ぎましょう |
肌荒れにクリームを塗るように、 気道のささくれをコーティングしましょう |
お薬が気道にきちんと届いていますか? |
「症状ゼロ」を目指して気長に頑張りましょう |
夏の間はおさまっていた症状が再び現れる秋は、喘息患者さんにとって少し憂鬱な季節かもしれません。症状を誘発するのは「寒さ」というより、気温や気圧の変化。秋は1日のなかの寒暖差が大きく、台風など天候の急激な変化が刺激となり喘息が悪化しやすくなります。 もうひとつ、秋と言えばスポーツ。涼しくなって運動を始める方も多いですが、喘息患者さんは、運動で体温がぐっと上昇することで症状が誘発されることがあります。とはいえ、健康のために運動は大切です。急激に体温を上げないという点で、お奨めは水泳やウォーキング。医師と相談しながら、生活に上手に運動を取り入れましょう。
では症状のお話をしましょう。喘息の症状というと、ゼーゼーヒューヒューと呼吸が苦しくなるイメージがあります。注意していただきたいのが、咳。繰り返す咳に対して、「自分は風邪をひきやすいタイプだから」と思ってしまう方が多いのですが、喘息による咳の場合があります。明け方や起きた直後に咳がひどくなったり、咳がしつこく続くときは、一度、受診してみてください。
また、「発作」とは救急車を呼ぶような重篤な状況であって、咳が出る程度は発作ではないと考えていませんか?特にひどい発作を経験したことのある患者さんは、軽い咳くらいは我慢しがちです。 しかし、私たち専門医は、普段の生活で我慢できる咳や喘息が原因で出る痰も「小さな発作」だと捉えています。まだ喘息と診断されていない方、診断されていても症状が軽い方たちが、「咳くらい我慢すれば良い」と治療をせずに、病状を悪化させてしまったケースを多く見てきました。 早めに治療すれば、急に咳き込む心配を抱えず、やりたいことを諦めることなく生活することができます。「これぐらいは我慢できるから」と放っておかずに、しっかりと治療しましょう。
喘息とは気管に炎症が起きる病気です。 指に「ささくれ」ができると、ちょっとしたことで痛みを感じますよね。気管の炎症は、「気管の表面がささくれている状態」なのです。気管の粘膜がはがれてその下の神経が剥き出しになっているので、冷たい空気、ちょっとしたホコリなどに敏感に反応してしまいます。
そこで、気管の炎症を抑えるために吸入ステロイド薬を使います。吸入ステロイド薬は、「ささくれ」をコーティングして保護するお薬です。ただ、コーティングしているので、お薬を吸入して咳がおさまったとしても、「ささくれ」のできやすい体質が無くなったわけではありません。薬をやめてしまうと、コーティングが剥がれてまた咳が出ます。それを何度も繰り返していると、「ささくれ」がより治りづらくなってしまいます。 お肌で言うと、1度だけクリームを塗っても、またカサカサするのと同じです。肌荒れやシミができないように、毎日クリームを塗りますよね。しかし、気管は見えないので、症状がおさまったらすぐに薬を中断してしまう人が少なくありませんが、毎日、吸入ステロイド薬の吸入を続けて、繰り返しコーティングすることが重要なのです。
吸入ステロイド薬が登場したおかげで、喘息は症状が出ないようにコントロール可能な病気になりました。ステロイドの副作用を心配される方も少なくありませんが、少量の薬剤を肺に直接とどけるため、全身性の副作用は少ないと言われています。
むしろ、しっかりと深い呼吸で正しく吸い込まないと、気管までお薬が届かず、効果が十分に出ないので注意が必要です。以前、ある患者さんが、間違った方法で吸入されているのを見てビックリしたことがあります。始めは吸入のコツを理解して正しく吸入できていたのに、いつのまにか我流で吸うようになっていたのです。 それを知って以来、私の外来では患者さんの前で自分がやってみせ、しつこい程、繰り返し確認するようになりました。みなさんも、一度、正しく吸入できているか、医療機関や薬局で確認してみてはいかがでしょうか。
喘息は、正しい治療を続けていれば、多くの場合症状をゼロにすることが可能です。目標は、学校や職場を休まないことではなく、症状がでないこと=「症状ゼロ」です。 そのために大切なことは、治療を中断しないことです。ひどい発作がおちついていても、軽い咳などが続いているだけで、将来ふたたび重い発作を繰り返すようになる可能性があります。また、症状がなくなっても、気管には炎症が残っているため、お薬を止めると症状が出てきてしまいます。 でも、もし、残念ながらつい自己判断で中断してしまった場合…、少しでも調子が悪くなったときは受診を躊躇したり、遠慮したりしないでください。自己判断で治療をやめた「負い目」や「気まずさ」を感じる患者さんも多いと思いますが、そのせいで治療再開が遅れてしまっては大変です。
もちろん、自己判断で中断しないことが一番です。もし、「もう、病院に行かなくてもいいかな……」と感じておられるなら、再び症状が出たときのことを想像してみて下さい。少々、面倒でも毎日の吸入を続けて、定期的に受診していれば安心だと思っていただけたら幸いです。一緒に、腰を据えて気長に治療を続けましょう。